I Love This Game

2006年刊行。207ページ。
深くて、高度で、質が高くて、最後はちょっぴり悲しい感動の書でした。
舞台は、2001年のベニスカップ決勝、ドイツ対フランス。47impフランスリードで迎えた最後の16ボード、逆転勝ちしたラストセッションの自戦解説です。 自戦解説といっても、単に各ボードのハンドのビッドとプレイを解説していっているのではなく、それぞれのボードごとに出てくるテーマを、他の実践ハンドも紹介しながら深く掘り下げて解説していっています。Sabine Aukenの考え方、哲学、戦略を惜しみなくさらけ出しています。Sabineが読んで参考になった本も紹介されています。商売のために書いた本とはとても思えません。Sabine Aukenのブリッジ人生の集大成という感じすらしてきます。
全体の16章のテーマは下のようになっています。
第1章 ミニノートランプのメリット
第2章 2スーターオープンの戦略
第3章 ライトナーダブル
第4章 ミッシングQの掴まえ方、LOTT
第5章 ビッドの戦略
第6章 シグナル(アティテュードとカウント)
第7章 シグナル(スーツプリファランス)
第8章 勝敗の分岐点
第9章 勢い
第10章 心理面の戦い
第11章 論理
第12章 トリック数のカウント
第13章 ストロングクラブシステムに対する介入
第14章 カードコンビネーション
第15章 逆転、ダニエルの名プレイ
第16章 オープニングリード
結び(告白)

印象深い記述がとても多く紹介し切れませんが、いくつか紹介します。

第2章「2スーターオープンの戦略」から
 Sabineは長年、2スーターオープンする場合、ウィーク、ストロングハンドのときのみ2スーターオープンし、インターミディエイトのハンドではスートでオープンし後で他のスートを紹介していた。この点に関し、メクストロスとディスカッションしたところ、メクストロスも昔はそうしていた。しかし、今では直ちに2スーターであるという形をパートナーに示した方が、プリエンプトあるいはハイレベルな競り合いになったときパートナーが判断しやすいので、直ちに示すことにしているとのことだった。それ以来Sabine-Danielaもそのようにオープンすることにし、同時に全ての2スーターを示せるようにしたとして、そのパターンが示されています。
 2のウィーク1スーターかとマイナー2スーター
 2のウィーク1スーターかとマイナー2スーター
 2:ボスメジャーかボスマイナーの2スーター
1993年のベニスカップや本大会の準々決勝対USA戦などでの成功例も紹介されています。

第3章「ライトナーダブル」から
 2002年のAmerican Fall Nationals、ライフマスターペア戦からAukenが組んだZiaのハンド
 QJ97532 QT8 3 76
ビッドは
 W   N   E   S 
     Sabine     Zia
         1D  2S
 P   P   3S  P
 5D  X   6D  P
 P   X   All Pass
OLはであるべきはず。Ziaは、をOL.全体は
AK972
T94
QJ432
AKT86 4
6543 J
6 AKQJ8752
A85 KT9
QJ97532
QT8
3
76
で、現在では、ライトナーダブルのOLの優先順位について
1.ダミーのサイドスート
2.ダミーが2スート紹介している場合は判断
3.ダミーがビッドしていないときはデクレアラーのファースト
 ビッドしたサイドスート
4.オポーネントのビッドがないときは、アンビッドスートの
 ハイエスト
とSabine−Danielaペアでは決めているそうです。

第4章「ミッシングQの掴まえ方」から
 Danielaのハンドの正確な読みに基づくナイスプレイ(33マーク)が紹介されている他、2000年のオリンピアードでのLorenzo Lauriaの名プレイが紹介されています。
9843
K8
KQ5
A752
Q5 T762
QT764 A52
J943 AT76
J8 T9
AKJ
J93
82
KQ643
コントラクトは3NT(South)
LauriaはSouth。オポはポーランド。
OLは、6(4thベスト)。EastのTuszynskiがAで勝って5をリターン。Westは7とあたかも4枚からのOLであるかのようなカードの出し方をする。ダミーK。さてここで。 Lauriaは相手を知っていた。Eastの5が3枚からの出し方でWestの7はフォールスカードと読んだ。そこで、Aを取りつつ、を4回取って(このときオポ双方を捨てた)、その後ダミーから9、Eastはロー。ここで長考の末K! WestからQが落ちて3NTがメークした。
後に、Eric KokishがLauriaにどう判断したのか聞いたところ、「4枚目のを回したとき、Eastはしばし考えた。もしEastがQ頭の4枚なら、何も考えなかっただろう。考えたということから、EastはQを持っていないと読んだ。」ふむ〜〜。

第5章「ビッドの戦略」から
 Sabineの好きなオーバーコールとして、1に対する2と1に対する2をあげています。特に5枚メジャーシステムに対しては有効としています。2の台で4枚のメジャースートを紹介しにくいこと、他方ボスメジャーなくてネガティブダブルをかけにくいことがその根拠として掲げられています。

第6章「シグナル」から
 2004年のGenerali Mastersで
JT83 ビッド
W  N  E  S
      1D P
1H 2C 2H 3C
4H P  P  P




OL:
4
52
AK8754
KQ9 A642
KQT96 A532
JT74 K83
2 Q6
75
J87
AQ96
JT93
このようなハンドで、コントラクトはWestの4
 才能あふれるMadaraは9で4枚を示したが、パートナーはKと続けてメーク。
 Versace選手は、1順目3とノンカモンし、シフトを期待したものの、パートナーは2順目やはりK。。
 BBOで中継されていたそうで、そのときのコメンテーターMeyer(フランス)はJを出しての長さ(4枚)を知らせるべきとコメント。
 分からなくなったAukenはフランスのAlain Levy選手に聞いたところ、「もちろんTに決まっている。」との答。たしかに、9はJT9からの3枚ということもあるので悪そう。で、ここでJかTかは、Jは、Tはのスートプリファランスとして機能する。ともかく、パートナー同士の決め方次第であることは確か。
(^_^)3 フムフム これも印象的でした。逆に言えば、世界のトップクラスでも決めておかないと間違いやすいパターン、ましてや週一、月一とかのアマチュアプレイヤーの立場で、このようなハンドのディスカードについてパートナーを責めるなどとは曲りなりにもやってはいけないと肝に銘じようと思いました。。

第9章「冷静さ」から
 Bob Hammanの著書「At the Table」を推奨して、ひとつひとつのボードに、ボードのみに集中すべしと強調しています。
その例として2003年のバーミューダボウル決勝、USA対イタリア戦でのHammanのプレイぶりを紹介しています。
 最終セグメントを残して28impのUSAリード。これがどんどんイタリアに追い詰められ追い抜かれていった。できないスラムに行って落ちて、レイダウンなスラムをビッドされ、ダブルしたコントラクトをVersaceのすばらしいバックワードフィネスでオーバートリックつきのダブルメークされて迎えたこのハンド。
A97
98
K743
KT97
63 KQJ842
JT54 76
A62 J8
QJ86 A52
T5
AKQ32
QT95
43
ビッドは
W(ハマン)N(ラウリア)E(ソロウェイ)S(ベルサーチ)
                     1H
P     1NT    2S      P
P     ダブル    P       3D
VersaceはのOLをダック、2回目をダミーのAで勝つ。3順目ダミーからをリードし、ハンドからQを出す。
ここで。WestのHammanの立場にある方の99.9%はAで勝って何かをリターンするだろう。Hammanはここでダックした!こうすることによって、Aはソロウェイにあるというイメージをいだかせたのだ。結果は4impのスイング。常に集中することの大事さを示す例として取り上げられています。

第14章「カードコンビネーション」から
 ここでは、「Bridge Odds for Practical Players」(by Hugh
 Kelsey & Michael Glauert)が紹介されています。

 とにかく、盛りだくさんです。Aukenワールドをすべてさらけ出したかのようです。
 と、やはり最後に告白が。ちょっぴり悲しい話ですが、Sabineの未来へ向かっての決意が書かれています。深読みすれば、Sabineの人生での悲しみから立ち直り、再び生きていくための決意を示した書であって、読者のためというより、Sabine Auken自身のために書かれた本なのではないかと感傷的になったりしました。



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